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東京高等裁判所 昭和35年(く)5号 決定 1960年3月26日

少年 T(昭一五・八・一九生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の理由は別紙抗告申立書記載のとおりである。

抗告人は原決定の非行事実の認定には事実誤認の違法があると主張するが本件保護事件を調査すると右少年の司法警察官に対する供述調書二通同人の審判調書Kの審判調書同人並びにH、D、Sの各司法警察員に対する供述調書によれば右少年Tはいわゆるカラス組と呼ばれている不良集団の首領格の一人であるが、昭和三十四年十月五日夜S外数名の者と判示社交喫茶ニュー×××に赴き外人部隊の首領格A等と、その前夜カラス組に属するF等が外人部隊の者を殴つたことについて口論をしていた際外人部隊の一味と喧嘩となりカラス組のC、Kが右喫茶店前路上で外人部隊の○石ことBその他多勢の者から殴打され日本刀で創傷を受けたので、これを知つた少年T等はカラス組の者が平素集合しているD方に集合し右D、S等とこの仕返しをしようと共謀し外人部隊の首領格A加害者B等に危害を加える目的で外三名は木刀をD、K外数名は角棒竹棒棍棒等を用意し総勢十余名が三台の自動車に分乗して先ず判示A方を襲いF、K等が同人方に侵入してAを探し求めたが同人が不在の為更に自動車を列ねてBの止宿先であるG方を襲いBの弟Mについて兄の行方を追究したがその目的を達せず更に判示Y方を襲つたが同人方でもYは不在で且つ戸を閉していたため已むなく一旦D方に引揚げたが更にD、T、F、Sの四名は再び自動車でAを求めて前示A方を襲つたことが認められるのであつて本件非行について少年Tはその首謀者の一人と認められるのである。従つて原決定の認定は相当であつて所論のような事実誤認の違法はないから論旨は理由がない。

次に所論は原決定の処分は少年の将来のため好ましくない結果をもたらすものであるから著しく不当なものとして取消を求めると云うのであるが、本件保護事件記録並びに少年調査記録を検討すると少年は中学在学中より学習態度が悪く、夜遊をし学校当局から素行上屡々注意を受けたことがあり中学卒業後も職業を転々として勤労意欲に乏しく昭和三十三年十一月頃からは夜遊び不良交遊が益々激しくなり昭和三十四年七月頃からは清水駅前のダンスホール△△△に出入しまたヒロポン宿となつていたD方に出入するようになりカラス組と云われる不良集団の首領格として△△△を根城とし毎夜清水市内の盛場を横行していたものである。また少年の性格は知能やや低く、気分の安定性を欠き自己本位であつて自律性に乏しく少年の家庭は父母は健在で父は自宅で煎餅焼を営んでいるが、少年の非行に対しては困却するのみで指導監督する力に欠け少年を保護する能力については多くを期待し難いものと認められるのである。また本件非行において少年の果した役割が決して軽くないことは前示認定によつても明白である。従つて少年に対してはその不良交友関係を絶ち規律ある生活により責任を自覚せしめ勤労意欲を養成するためこの際相当期間施設に収容して矯正教育を行う必要があると認められるからこれと同趣旨に出た原決定の処分は相当であつて、この点の論旨もまた採用することができない。

よつて本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、少年法第三十三条により主文のとおり決定する。

(裁判長判事 山本長次 判事 荒川省三 判事補 大沢博)

抗告申立書

少年 T

右の者に対する兇器準備集合保護事件につき、昭和三十四年十二月十一日静岡家庭裁判所が為した送致決定に対し左の理由により不服であるから抗告の申立をする。

昭和三十四年十二月二十五日

右附添人弁護士 吉武敬喜

東京高等裁判所 御中

抗告の趣意

一、原決定は事実誤認の違法がある。

原決定は非行事実について、少年Tが他の者等と共同して所謂外人部隊に対し仕返しをかけることを企てたと認定しているが、本件の仕返しを企図し兇器の準備を命じた張本人は成人であるD及びSであつて、Tは之に追従し兇器を準備したに過ぎない。

二、原決定の保護処分は著しく不当である。其の理由は左の如し。

(1) 少年が所謂「からす組」と称する不良集団の首領者であり、毎夜の如く盛場を横行していた如く認められているが、かかる名称の組織ある不良集団が果して存在したか疑問であると共に、Tがこれに加盟し其の首領であつたと認められる証拠は乏しい。

(2) 少年の性格は鑑別結果によつて明らかな如く、気は小さく内向性であり、自ら積極的に計画行動する方でなく追従し易い性格であるから、実面的に虚勢を張ることがあつても、真の悪党たる度胸をもつていない。本件動機となつたニュー×××前の喧嘩にも加わらず逃げているし、又兇器を持つて他の共犯者と共に相手方に押しかけた際も、家屋に侵入した事実のない点からもこのことはうかがわれる。

(3) 少年の生活環境のうち、家庭は両親が知性やや乏しく子等に対する統制指導力の弱いことは認められるが、家庭内の折合はよく少年に対する愛情も深い。従つて家庭環境が少年を不良化せしめたとは思われない。

少年を不良化せしめた原因は実に職場の不適と不良交友関係であつたといえる。

(4) 故に少年に対する保護の方法としては、精神的覚醒を促すことは勿論であるが、規律正しい職場に転換せしめ不良交友関係を禁止することでありこれを以て十分であると思う。従つて鑑別所の意見が在宅保護とし補導委託を望ましいとした点が適切と考える。

原決定は少年の性格を悪質と判断しこれを矯正教育するためと環境是正のために施設に収容隔離する必要があるとしているのであるが、右の判断は早計に過ぎ少年自身の改悛の情と保護者近親等の善処と将来の保証への努力を無視したものである。

(5) 幸い近親の努力により適当な就職先もでき、又家庭の指導力の不足は同じく近親の司法保護司○本○作に補導を依頼し、両親も全力を尽して少年の善導保護に努力する覚悟を示している現状においては、少年を家庭に帰しても、再び非行を犯す虞は絶対になく、又職場の規律ある環境に於て動労意欲も向上するものと認められる。

(6) 原決定は処分の均衡にとらわれ過ぎ、又制裁的意味が強いと思料する。併し少年に対する処分はあくまでその保護善導が目的でなければならない。若し少年院における集団生活が少年に対し逆効果を来たすとすれば、取りかえしのつかないことになる。

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